おかしなクリスマス


とあるオフィスビル。大きな全面ガラスからは宝石箱をひっくり返したような夜景が一望できるが、残念ながら誰もそれを眺める者は居ない。
オフィスの中はほとんど無人で、消灯されており、静か。その一画だけ煌々と蛍光灯がついており、その下に、炎と夢が斜めに向かい合った席で何やらモニターを眺めながら作業中。互いに視線はモニターから外さないまま、ぼそぼそと会話をしている様子。
炎は肘までシャツをまくり上げ、タイも外しているが、夢様は、タイを若干緩め、上着を脱いでいるのみ。前髪はちゃんと染まっていますw
夢「さっむー!!ちょっとオ巣カー、エアコン止まってんじゃないの?温度みてきてよ!!もー!!こんな日に限って、なんだってアタシが会社で残ってまで報告書作ってんのよ。ったく、誰かのたたき台が遅れたせいで!!」
炎「お前はいちいち一言多い奴だな。俺だって好きで遅れた訳じゃない。先方とのスケジューリングがうまくいかなかったんだ。もう一日遅れなかっただけ、幸運だと思うんだな。」
夢「言うに事欠いて!!」
炎「手がお留守だぞ。無駄口をたたくなら手を動かしながらにしろ。」
夢「×●▽▲!!」何やら言いたげにしてから、あきらめたようにぐしゃ、と一度手櫛で乱暴に前髪を梳き、ため息をついて作業に戻る。
と、そこへ何やら茶色の大きな紙包みを持った水様が登場。肩口で緩く髪をまとめ、ライトグレーのベスト姿。ジャケットとトレンチコートは左腕にかけてある。
水「おや。貴方がた、まだやってるのですか?エアコンが止まってるじゃないですか。(と入り口付近のスイッチを荷物をもったまま、器用に押す)」
夢「ほらご覧!」
炎「お前・・・なんで戻ってきたんだ?」
夢「無視かい!!」
水「戻ってきてはいけませんか?(不機嫌そうに片眉を上げながら、オリヴィエの隣の席に移動。荷物をデスクの上に置く。)」
炎「俺は、『なんで戻ってきたのか?』と聞いたんだが?(むっとしたように。)」
水「(コートを掛けに入り口付近に戻りつつ、オ巣カーに背中を向けたまま)明日の訪問先のデータで抜けがあるような気がしたので、追加でデータをさらおうと思っただけですよ。まぁ、いずれにしろ、貴方には関係のないことです。」
炎「●▽◇■!!(目を白黒させて、口をぱくぱくしている。)」
夢「わはは、ざまぁみろー!(モニターの隙間からオ巣カーの表情をのぞき見て)・・・それにしてもリュミちゃん、この包みやたらいいにおいね。なぁに?」
水「あぁ、それですか。チキンです。」
炎「(忌々しげに額に指先をやり、頭を振ってから、黙々と作業に戻る。)」
夢「チキン!?めっずらしー!!どうした風の吹き回しよ?」
水「ああ、頂いたんですよ。社から出ようとしたところで。えぇっと・・・秘書課の新しく入った青っぽい子です。」
夢「もしかして、露座リア?」
水「ファーストネームで言われましても。確か・・・。」
炎「露座リア・で・かたるへな。」
水&夢「・・・・。」
炎「なんだ?」
夢「さすがというかなんと言うか・・・ひくわぁ・・・。」
炎「お前らの情報網が甘いんだろ。」
水「男性社員も覚えているなら、その話も通りますがね。(あきれたように肩をすくめて。)まあとにかくその子です。」
夢「ん?ちょっとまって、社から帰り際。彼女がアンタにチキンを山盛り渡したって訳?」
炎「(はっと息をのんで。)おいちょっとまて!お前、慎重に、そのときのやり取りを思い出せ。今すぐだ!!」
水「なんです?二人して。(怪訝そうに眉をよせ、自分のPCのスイッチを入れる。)」
夢「(ごくっとつばを飲んで。)いや。マジで重要なことなんだってば!」
水「はぁ・・・。まぁ折ヴィエがそう言うなら。そうですね。確か・・・彼女から声をかけてきて、『流ミエールさん、チキンは、召し上がりますか?』といわれ、『はぁ、頭がついていなければ。』と答えたら、彼女がこの包み紙を私におずおずと差し出しつつ、『あの、これ買いすぎてしまって。もしよろしかったら・・・』といい、その先がなかなか聞けないので、『頂けるのですか?有難うございます。』と私が促し。彼女が、『あ、はい。どうぞ。』と言って・・・それで別れました。その後、駅に行く前に私が・・・・。」
夢「リュミちゃん・・・・。」
炎「リュミエー流・・・。」
水「なんです?二人して、気持ちの悪い・・・。」
夢&炎「今日は何の日(だ)?」
水「はい?」
夢「オ酢カー!!マジ、天然よ!この子!!どうすんの、超気の毒なんだけど!!フォローのしようがないわっ!!」
炎「まぁ、こういう奴を見初めてしまったお嬢ちゃんもお嬢ちゃんだがな・・・。俺にしておけば、素敵な夜になったものを。(側にあった栄養ドリンクを持ち上げ、眉間に皺を寄せてやりきれんな、といった表情で、一つ空ける。)」
水「話が見えませんよ。いったい何の話です?(と、いいながらディスプレイのスイッチも入れる。)」
暫く沈黙の中、炎と夢のタイプ音が響く。ますます眉根を寄せながら、水も仕事にかかるか、とタイプ音を響かせ始めたところで。
炎&夢「メリークリスマス。リュミエー流。(作業しながらぼそっと)」
水「はい、メリークリ・・・え?(タイプの音が途切れる。)」
夢「(固まっている約一名は無視しつつ)どうすんの。せっかくだし、三人で食べる?買いすぎたってチキン。」
炎「(同上)下の自販で俺ロールケーキでも買ってくるか。」
水「まぁ、クリスマスの買い出しで余ったもの、ということですよね?(汗をかきつつ、オリヴィエの横顔をじっとみる。<結構必死)」
夢「(何も言わずに、肩にポン、と手をおき、フリフリとかぶりを振る。)」
水「そんな・・・。」
炎「俺は行ってくる。(そそくさと退散。)」
夢「いいのよ、アタシたちはそんなアンタが好きよ。(うんうん、とハンカチで目元を拭いながら)」
炎「(部屋をさる直前で振り返ろうかどうしようか逡巡し、そのまま結局部屋を出ていく。)」
しばらくして、炎戻る。
炎「ロールじゃ雰囲気でないが。」
夢「あるだけ上等でしょ。ここはシャンパンと行きたいところだけど、まぁそれも気分次第でこいつでどぉ?(炭酸入りの栄養ドリンクをキャビネットから三本取り出し、顔の近くで振ってみせ、ウィンク。)」
水「・・・。(気を取り直したように、テキパキと紙袋を簡易の皿にしたて、三人分にチキンを均等に分ける。ロールケーキも開封。二本をそれぞれ三等分にし、それぞれに分ける。)」
夢「そんじゃぁ・・・(栄養ドリンクを分配。)」
三人「(苦笑)メリークリスマス!」

終。

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