断章:神々の思惑


行こう 彼の城を目指して
行こう 彼の城を目指して

行けば そこに勝利がある
炎の聖剣バーミリオンが 我らに加勢する
炎の軍神サータジリスが 我らに加護を

行けば そこに勝利がある
水流の民の一族には 豊富な水の大地がある
水流の民の一族には 豊かな緑の大地がある

行こう 彼の城を目指して

ヒトの王よ 我らが 共に 戦おう

行こう ヒトの一族よ共に
行こう 彼の城を目指して

我らの行くところ 勝利がある
サビーナが言う
私の持つ軍馬は 疾風のごとく戦場を駆けめぐり
必ずや あなた方に

我らの行くところ 勝利がある
カーマインが言う
私の持つ炎の剣は どの軍をも蹴散らす力となり
必ずや あなた方に

我らの行くところ 勝利がある
センドールが言う
私の持つ千里眼は 未来を見通す力となり
必ずや あなた方に

行こう ヒトの一族よ共に
行こう 彼の城を目指して

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「兄さん、一体何が気にくわないと言うの?」
サビーナは苛立たしげに手に腰を当て、目を眇めた。
「カーマインを名前で呼ぶのは止せ。それだけだ。」
至って淡泊に。何の感情の起伏も見いだせない声で、センドールはサビーナに告げた。
「カーマインはカーマインよ。『兄さん』じゃないわ。」
センドールとは対照的に、挑戦的な調子でサビーナは返した。そして続ける。
「知らないとでも思っていたの?母様のあの、色を孕んだいやらしい目!すぐに分かることだわ。」
嘲るように、ハッとサビーナは嗤った。妖しく、その金色の目が光る。
「母上をそんな風に言うのは止せ。」
その光から、目をそらして、センドールは静かに言った。
「お前が、カーマインをどう思っているかは知らないが、母上の子だ。カーマインは。そして我々の兄弟だ。そうだろう。」
なおも冷静に続けようとするセンドールを、遮ってサビーナは喚いた。
「私たちは、異父兄妹よ!!と。そう、はっきり言えば兄さんは納得するわけ?!」
その怒気を含んだ目を、少し屈んで、今度はまじまじと、センドールは覗き込んだ。両肩に、手をかけて言う。
「母さんは、火竜だぞ?私たちに父親など居ない。」
「ではなぜ・・・カーマインの瞳は『あんな色』なの。金、銀、黒、金、銀、黒。でもあんなに美しい瑠璃色をした人は、一族にはいないわ。だからこそ、私も母さんも・・・そして兄さんも、カーマインから、目をそらすことが出来ない。そうでしょう!」
「止せ。」
しかし、サビーナは収まらなかった。
「あの人の色よ。」
言ってから、勝ち誇ったように、うっとりとサビーナは笑った。
「止せッッ!」
初めて、センドールは声を荒げた。荒げた声は、それまでのセンドールの低く美しい声と同じ声とは思えない、掠れて、細く悲痛な響きを持っている。
「水流の民の王の、あの瞳の色を見たでしょう?あの人の、色なんだわ。」
フフフフ、とサビーナは笑った。

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「なんか怖い女だな。サビーナ。」
「いや、まあ女性はそんなものでしょう。歌に出てくる女にしては、マシな方ですよ。」
「いや、怖い女性もそれはそれで・・・」
「それに、最後の方は、少し凛々しくなって、もっと素敵な感じになりますよ。」
「女は変化が面白いって?」
「誰もそんなこと言ってませんが・・・。」

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見渡す限りの荒野、ぽつんとある井戸からサビーナは水をくみ上げた。
「噂の、セリーヌソワを見たぞ。」
乗っていた馬を降りて、センドールはサビーナに声をかける。
サビーナは片方の眉をくぃっと上げた。
「肉眼で?それともソチラの眼?」
「ソチラの眼で、だ。」
フフ、と鼻で笑って、
「そう、どうだった?やはり美しいの?」
センドールは顎に手を当てて眼を伏せ、少し思案してから、
「お前と同じくらいには。」
とぶっきらぼう気味に答える。
「やはり、恋に落ちるのかしら。」
どうでもいいことのように、サビーナは呟いた。
「意外だな、お前はもっと熱くなると思ったが。」
サビーナの真意を図りかねる、といった様子でセンドールは首をかしげ、腕を組んだ。
「カーマインを好きよ。でも、彼は私のものにならない。そんなことずっと前から分かり切ったことよ。」
まだ少女の面影が少し残る、その顔に似合わないような、皮肉な笑顔を浮かべて、続ける。
「私は、彼を自由にしてあげるの。母様の、呪縛からね。」
最後は、やはり彼女特有の、どこか陰のある妖しげな雰囲気が漂っていた。
「俺は、お前ほど野心家じゃない。好きにすると良い。ただ、ひとつだけ、覚えておけ。母殺しは、重罪だ。」
ここではない、どこか遠くをみるようにして、センドールは言った。
「見えているのね。私が勝つのかしら。それとも母様?」
うっとりと言う妹の伏せた瞳を、センドールは忌忌しげにチラリと見る。その態度に、
「怒っているの?母殺しは罪かもしれない。でも子殺しもまた、罪だわ。母様は、カーマインを生きながら殺しているも同じよ。」
吐き捨てるように言って、サビーナはセンドールの瞳の奥を睨んだ。彼の見ている未来に、挑戦するように。

センドールは、独り。
母にも、サビーナにもついていけずに、ため息をついた。

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「よく、わからんな・・・で?結局サビーナってどうなるんだ?」
「さっき話したでしょう。最後は、セリーンと二人で消えて行くところで終わるんですよ。この後歌に出てきますから、黙って聞いてください。ちっとも先に進まない。」
「この歌は長すぎる。ずっと話を覚えておくのが大変なんだよ。」
「記憶力の問題じゃありません?」
「話は忘れたがメロディーは覚えてるぞ。俺の記憶力はそっちに使ってるんだ。さっきのところは、こうだ。タララータラッタラターラッ!な?」
「・・・・」
「なんだよ。」
「ま、まあそういうことにしておきましょうか。」
「なんだと!?」

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