フェアリーテイル・おとぎ話




つかの間の微睡みから目覚めたオスカーは、自分を見つめるリュミエールの蒼い瞳と久しぶりに正面から向き合う事になった。

その蒼い瞳は悲しげに微笑んでいて、つい先ほどの激しい行為を忘れさせるほど儚げで…思わずオスカーは引き止めるようにその白い腕を掴んだ。

掴まれたリュミエールは驚いたように目を見開き、ゆっくり大きく1つ瞬きをすると
「心配をかけてしまいましたか?」
とイタズラを見つけられた子供のように微笑んだ。

「いや…」
そうじゃないが…とモゴモゴ言いながら手を離すオスカーに、リュミエールは故郷のおとぎ話を口にし始めた。


広い広い海に、1匹の銀色の魚がいました。
魚は水から出る事は出来ませんでしたが、それでも彼の世界は満たされていて、とても幸せに暮らしていました。

ある日ぼんやり水面を見つめていると、見慣れない影が1つ過ぎりました。
近付いてみると、大きな赤い蝶が1羽ヒラヒラと飛んでいました。
見渡す限りの青の世界を踊るように飛んで行く赤を、魚は素直に綺麗だと思いました。

蝶もその時、魚を見ていました。
見渡す限りの青の世界で滑るように近付いて来る銀色を、蝶も素直に綺麗だと思いました。

水面を挟んで互いに見つめ合った時、恋していると気付いた魚と蝶…でも、魚は水から出られません。蝶は水に入れません。

こうして水面を挟んで、見つめ合うしか出来ませんでした。……


「…で? 魚と蝶はどうなるんだ?」
話を止めたリュミエールに、オスカーはクスリ笑って問いかけた。

「えぇ、話としてはここまでなんですよ。キチンと終わっていないので、あとは母親毎に違っていたりします。」

…あなたなら、どう続けます?と戯れに微笑むリュミエールに、オスカーは自信ありげに答えた。

「そうだな…ま、俺ならどこか一緒に暮らせる場所を作るだろうな。…水と空気がありゃ良いんだろ?」

朗らかに笑うオスカーを見つめ、リュミエールはふわり微笑んだ。


…私は悲しい未来しか作れませんでした。魚が手を伸ばしても、蝶の羽は水の重みに耐えられないと…

あなたが言うなら、どこかにあるのでしょう。水の底のユートピアも、海の向こうのアルカディアも……


FIN.



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